ufotableの屋台骨を支え、発展の土台となり、クリエーターを育ててきたTYPE-MOON作品

投稿日: 2020年09月01日

 アニメ誌で原稿を書かせていただくようになってから、15年くらいになる。しばしば話のネタにしているのだけれど、アニメ誌に初めて書いた原稿は、放送開始前の「涼宮ハルヒの憂鬱」の簡単な作品紹介だった。たしか、400字くらいだったと思う。制作を手掛けた京都アニメーションは、すでに「フルメタル・パニック?ふもっふ」「AIR」の2作の元請け作品でアニメファンから熱い注目を集めてはいたものの、「ハルヒ」から「らき☆すた」を経て、現在まで続くような圧倒的なブランドイメージはまだ確立されていなかった。「まだろくにキャリアを積んでない二十代前半のライターに、いきなりそんな大きめの仕事が」と不思議に思う人もいるかもしれないが、つまりまあ、そういうことである。

 そんなことを振り返ってみたのは、今回、編集部からのオーダーで、『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」Ⅲ.spring song』についてのコラムを書くことになったからだ。あのころ、2000年代中盤、京都アニメーション、シャフト、そして『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」Ⅲ.spring song』のufotableが、元請スタジオとして急速にその存在感を高めていった。シャフトは「ぱにぽにだっしゅ!」を、ufotableは「フタコイオルタナティブ」(studio FLAG、feel.との共同制作)を送り出すころ。そんなタイミングに、たまたま新人のアニメライターとして仕事をしていられたことは、今にして思えばとても幸運なことだったと思う。

 ufotableの存在は、初元請作品の「住めば都のコスモス荘 すっとこ大戦ドッコイダー」の時点で意識していた。といっても、別に自分の先見の明を誇るつもりはない。当時の十代から二十代のアニメファンであれば、まず間違いなく、そこで「何か」が起こっていることは意識していたはずだ。とにかく若いギャグと作画の勢いは、それほどのものだった。近い系統の「ニニンがシノブ伝」も、もともと原作ファンだったこともあり、楽しませてもらった。「おやっ?」と感じたのは、今でも根強いファンのいる「がくえんゆーとぴあ まなびストレート!」。そして「劇場版 空の境界」で、スタジオの印象ががらりと変わった。往年の、「濃い」OVAのような映像美を目指していく会社なのか、と。

 昨年の「鬼滅の刃」の大ヒットも記憶に新しいが、ufotableは別に「空の境界」以降、TYPE-MOON関連のタイトルだけを主に手掛けているわけではない。「テイルズ オブ シンフォニア」「テイルズ オブ ゼスティリア」シリーズがあり、「活撃 刀剣乱舞」があり、ほかにも数々の印象的な作品がある。それでも、やはり「空の境界」から「Fate/Zero」に至り、「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」から「Fate/HF」へと至るTYPE-MOON関連作品が、会社の歩みを支える太い背骨であったという印象を、どうしても受ける。

 手元にある『空の境界 the Garden of sinners THE ANIMATION 画集』を開き、「Fate/HF」で監督を務めた須藤友徳の手による版権絵をつらつらと眺めると、そうした継続的なプロジェクトがあることの重みをひしひしと感じる。ゲーム「Fate/Grand Order」を筆頭に、今やさまざまな描き手によって構築されている「Fate」の世界だが、その中心にオリジンとしての武内崇の絵があることは言を俟たない。須藤はその武内の絵柄を、長い時間をかけて自家薬籠中の物とし、印象的な版権イラストを送り出すだけではなく、画面の中を縦横無尽に駆けさせる。アニメーションとして絵を動かすためには、万単位の絵を描く必要があるわけで、粗雑な計算ではあるが、もしかしたら武内本人よりも須藤が描いた、もしくは、なんらかの形で手を入れた武内的な絵の方が、枚数としてははるかに多いのかもしれない。これは「Fate/stay night」の主人公である衛宮士郎が、数多いる英雄たちの宝剣を魔力で再現しつつ戦う姿に、どこか似ている。本物に近づくための、無数の投影……。

 そうした須藤の長い時間をかけた絵柄への習熟を可能にしたのは、ufotableという場があり、そこが「Fate」という、人気作であり、よいものを作り上げればある程度の成功は確約されているとはいえ、作画はもとより、撮影、3DCG、音響などなど各工程において途方もない過酷な作業を要求され、ファンからの期待、プレッシャーも大きいシリーズをアニメ化することから逃げなかったからだろう。

 TYPE-MOON作品、とりわけ、「Fate」シリーズを作り続けることが、ufotableというスタジオを支え、発展の土台となり、そこで須藤を筆頭に、才能あるクリエイターたちがじっくりと、時間をかけて成長していった。それは、人が育つということの、ひとつの理想の形に近いかもしれない。もちろん、外部からうかがい知れない実情は、いろいろとあるのだろうけれども……。

 『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」Ⅲ.spring song』は、そうした時間のかかる積み重ねの先にしかない、丁寧に構築された映像美を見ることのできる作品だった。見終えた瞬間、「成熟」という言葉が脳裏を過ぎった。濃密な空間描写と、立体的で自在なアクション。静と動のメリハリ。ufotableというスタジオの、須藤というクリエイターのスタイルがひとつ、完成したように感じられた。そして思わず、15年経っても未だフラフラと落ち着かない我が身を顧みてしまったのであった。つまり、何がいいたいかというと、Fateは人生ってことよ。……何かが違うだろ、というか、こんなオチでいいのか?

 ま、ともあれ。こんな感じで、これから月イチくらいのペースで、コラムを連載する。お付き合いいただければ幸いだ。そのうち、「成熟」を感じさせるものが、書けるといいなあ。無理か。根が軽薄だから。ははははは。

◆前田久(まえだ・ひさし)1982年生まれ。ライター。通称「前Q」。主な寄稿先に「月刊ニュータイプ」「電撃萌王」(KADOKAWA)など。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演中。

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