今『ポケモン』が面白い! スペシャルMV「GOTCHA!」に込められた伝統と革新

投稿日: 2020年10月28日

 いま『ポケットモンスター』がヤバい、すごい、面白い。

 ちょっと待って、『ポケモン』は昔から面白いだろ! とツッコむ方がいるかもしれない。おっしゃるとおり。たしかに『ポケモン』はずっと面白かった。

  1996年に任天堂の携帯ゲーム機ゲームボーイ向けに一作目が発売された、シリーズも今年でなんと24年目。世界中にいる不思議な生き物ポケモンと出会い、仲間となり、ともに冒険していくゲーム『ポケットモンスター』は、いまやゲームだけでなく、アニメ、劇場版アニメ、カードゲーム、キャラクターグッズと幅広く展開している。その展開の大きさはいまや日本にとどまらず、世界中へと波及しており、ディズニーと並ぶ、コンテンツの王者に君臨していると言ってもいいだろう。その王者『ポケモン』がここ数年、攻めているのだ。シリーズ20年目を超えたあたりから、新たな試みに踏み込んでいるのである。

 まず、20198年にNintendo Switch向けに発売されたシリーズ最新作『ポケットモンスター ソード・シールド』では、10月に追加ダウンロードコンテンツ『エキスパンションパス』の「冠の雪原」が配信された。この追加データでは、これまでのシリーズに登場した「伝説のポケモン(めったに出会うことができない伝説的な生態を持つポケモン)」たちが顔をそろえるという、まさにシリーズの総決算的な盛り上がりを見せている。

 盛り上がっているのはゲームだけじゃない。1997年から放送をしているアニメ『ポケットモンスター』シリーズも、ここ数年新たな動きを見せている。2016年から放送された『ポケットモンスター サン&ムーン』からはキャラクターデザインやメインスタッフを一新。19年間5シリーズにわたってポケモン世界の各地を旅してきた主人公サトシとパートナーのポケモン・ピカチュウのドラマをいったんリセットし、カントー地方から旅立ったフレッシュな少年として描きなおされている。サトシは現在放送中の『ポケットモンスター(令和版)』では出発点であるカントー地方で研究所のリサーチフェローとして世界各地へ転々とするキャラクターに。ゴウという、世界中のポケモンをゲットすることを目標とする少年を、ダブル主人公として、これまでのシリーズの枠にとらわれない、世界中のポケモンと次々と渡り合う物語となっている。

 アクションの見せ方やギャグ表現などが、これまでのシリーズと比べて、いかにも令和ふうのデジタル作画っぽい奔放さがあふれている。長期化している『ポケットモンスター』シリーズに新風を送り込んだ試みと言えるだろう。なお、『ポケットモンスター(令和版)』の新しいオープニング・テーマ「1・2・3」は西川くんとキリショー名義で、西川貴教とゴールデンボンバーの鬼龍院翔のコンビが歌唱を担当している。ニコニコ動画の歌い手として知られるAfter the Rain(そらる×まふまふ)が手掛けた楽曲を、歌唱力に定評のあるベテランのふたりが歌うという組み合わせも新鮮。歌詞を読みながら、ふたりの熱唱を聴いていると、元気が湧いてくるから素敵だ。

 また、ゲーム『ポケットモンスター ソード・シールド』の発売に合わせて、劇場版『ペンギン・ハイウェイ』を手掛けた気鋭のスタジオコロリドによる、新作アニメ『薄明の翼』も発表されている。各話約5分、全7話で配信されている作品だが、こちらも見どころたっぷりだ。

https://www.pokemon.co.jp/ex/hakumei_no_tsubasa/

 さて、そんな『ポケモン』シリーズの勢いを表すかのように、さらにインパクトあふれる新作映像が登場した。
 2020年9月29日、145万人が登録されているポケモン公式YouTubeチャンネルで配信された、人気バンドBUMP OF CHICKENによる新曲「Acacia」のスペシャルミュージックビデオ「GOTCHA!」である。
 わずか3分14秒の映像だが、「ポケモン』のシリーズ24年の歴史がギュッと詰め込まれている。配信されてわずか1週間で1000万回再生を記録するという偉業をなしたのだ。

 この映像は白黒のドット絵で描かれる4人の男たちの姿からはじまる。彼らは夏の日差しの下、野原に伸びる線路の上をどこまでも歩いていく――。

 これは一作目の『ポケットモンスター 赤・緑(青・ファイアーレッド、リーフグリーン、ピカチュウ、イーブイ)』の主人公の家のテレビで表示されているテキストを映像化したもの。

「おとこのこが 4にん せんろのうえを あるいている….」

 ゲーム『ポケモン』にも影響を与えた映画『スタンド・バイ・ミー』をモチーフにしており、これをBUMP OF CHICKENのメンバー4人に重ねているのだ。

 楽器を盛った4人がじゃれあいながら歩いていく映像のあと、少年と少女の成長を記録したスライドが挿入される。
 このMVが面白いところは、少年のお母さんの記録映像と、現実(今の少年)で構成されていることだ。記録映像はときに色がにじみ、モアレ(色ズレによるにじみ模様)を起こし、粗い解像度になっている。その懐かしい映像の前を、成長した少年が少女と出会うボーイ・ミーツ・ガールを描くことで、現在と過去が交錯し、大きなドラマを生んでいるのである。

 序盤に映し出されるスライドの中で少年は、物心ついたころにポケモンのピカチュウと出会い、少女は生まれたときからいっしょにいるポケモンのイーブイとともに成長していく姿が映し出される。このMVに登場するピカチュウとイーブイは、欲見ると90年代のアニメを彷彿とさせるデザインになっている。まるで『きんぎょ注意報!』のぎょぴちゃんや90年代サンリオキャラクター的なデザインで、一目で「懐かしい」「古めかしい」と感じるマンガデフォルメされたデザインだ。これはいわば、リアルロボットの中にスーパーロボットを織り交ぜたようなアプローチ……いや、ちょっとわかりにくいか。別の言い方をすれば、現代のモダンな風景の中に昭和の日本家屋を描くようなアプローチと言えばいいだろうか。デザインのタッチの違いだけで「時代の年輪」を感じさせる手法といえるだろう。

 やがて、猫背気味の少年とぐーたらなピカチュウ、快活な少女と元気なイーブイは青空の下、スクリーンの前を歩いていく。スクリーンに映し出されたポケモンたちは、みず、でんき、じめん、こおり……といった属性別に分かれており、それぞれのポケモンたちが映像から飛び出すように、スクリーンの外を歩く少年と少女に干渉していく。走り出した少年と少女は、ピカチュウとイーブイたちと別れてしまう……。

 ピカチュウとイーブイというパートナーと離ればなれになった少年と少女は、巨大なビルが立ち並ぶ街中にただひとり取り残される。伝説のポケモンたち、サカキやフラダリ、ルザミーネといった悪役のシルエット(影)が重なり、世界の広さと深さを感じさせる。孤独感を際立たせた演出がとても印象的だ。
 やがて、そこで少年は、少女のイーブイと出会う(エンカウントする)。

 このエンカウントをきっかけに、これまでの『ポケモン』シリーズで主人公(プレイヤー)の前に立ちはだかる四天王やチャンピオンたちが次々と姿を現す。ワタルとカイリュー、ダイゴとメガメタグロス、ミクリとミロカロス、シロナとガブリアス、アデクとアイリスのチャンピオンを継承するタッチ、カルネ……。そしてメイとヒュウ対ジュンとコウキのダブルバトル、『ポケットモンスター X・Y』の友だちたちサナ、ティエルノ、トロバ……。『ポケットモンスター ブラック・ホワイト』のチェレン、トウコ、ベルの3人の背中が、『ポケットモンスター ブラック2・ホワイト2』のチェレン、キョウヘイ、ベルの背後にオーバーラップしていく。そして伝説のポケモン・ミュウツーが姿を現す。

 『ポケットモンスター サン・ムーン』のハウ、グラジオ、リーリエ、そしてミヅキがZワザポーズを決めると、トウコとNが対峙。瞳の中にはNとレシラムが写り、Nの瞳の中にはトウヤとゼクロムが写る。シルバーとユウキ、ハルカ。セキエイこうげんでポケモンたちと挑発するグリーン、シロガネやまで戦うヒビキとレッド。最後にレッドの帽子が吹き飛ばされて――。

 ざっくりと駆け足で説明してきたが、中盤のシーケンスでは、これまでの『ポケモン』シリーズの主要登場人物やポケモンたちが次々と登場する。それぞれが活きいきと躍動し、表情豊かに描かれていく。1カットで名場面や関係性、そしてバトルを描く超高密度な映像がたまらない!

 やがてレッドが飛ばした帽子は、少年とイーブイのもとに落ちる。驚いた少年はピカチュウとともに歩く少女とめぐりあう。ボーイ・ミーツ・ガール。少年と少女、ピカチュウとイーブイが出会い、一同はともに旅を続けていくことになる。その旅する2人と2匹の姿は、冒頭の線路を歩く4人の姿へオーバーラップして、この映像は終わっていくのだ。

 この超濃厚なMVを手掛けたのは、松本理恵監督(絵コンテ・演出・監督)。初監督作『映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』で注目を集め、『京騒戯画』や『血界戦線』といった作品を手掛けている才気あふれるアニメーション監督だ。BUMP OF CHICKENとはこれまでも『血界戦線』のオープニング「HELLO WORLD」、ロッテ創業70周年記念スペシャルアニメーション「ベイビーアイラブユーだぜ」を手掛けており、バンドと松本監督との相性は最高だ。

 また、キャラクターデザイン・作画監督・原画の林祐己は、松本監督と長年タッグを組んでいる重要なパートナー。今回も松本監督の緻密な絵コンテに合わせて、けれんみたっぷりのアニメーションを作り上げている。アニメーション制作は『血界戦線』や『僕のヒーローアカデミア』を手掛けてきたボンズ。原画にはアニメ『ポケットモンスター サン&ムーン』『ポケットモンスター(令和版)』でキャラクターデザイン、総作画監督を担当している安田周平、同じくアニメ『ポケットモンスター(令和版)』で活躍している村田理ら、いわゆるアニメ『ポケモン』勢も参加し、思い入れたっぷりのパートを担当している(安田氏は後半のアローラ勢の登場カットを担当している様子)。

 まさしく松本監督とおなじみのスタッフ、そしてアニメ『ポケモン』シリーズのスタッフが力を合わせた、アニメならではの切り口による『ポケットモンスター』24年の総決算が本MVには込められているのである。

 1996年から24年間続いてきた『ポケットモンスター』シリーズは、ゲームにしても、アニメにしても、グッズにしても、プロデュースサイドによるキャラクターや世界観の管理が厳密だと言われている。作品も定番化しており、時間を重ねるごとに窮屈なルールも数多くなっていることだろう。だが、松本監督が手がけた映像が新風を吹き込むことで、新しい表現が生まれている。24年の歴史を重ねてきた伝統が革新されることで新しい面白さが誕生しているのだ。

 いま『ポケットモンスター』がヤバい、すごい、面白い。新たな世代が作る『ポケットモンスター』シリーズの未来に注目だ。

 ◆志田英邦(しだ・ひでくに) ライター、編集者。アプリゲームなどのシナリオなども手掛ける。主な寄稿誌にアニメ誌、ファッション誌など。一児のダメ父。